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「美術・建築におけるサイトスペシフィック的視点による考察と調査研究」(2010)

研修旅行リポート

大学院プロジェクト科目
「美術・建築におけるサイトスペシフィック的視点による考察と調査研究」(2010)

室内建築の沖健次教授と僕 母袋が担当する大学院プロジェクト科目「美術・建築におけるサイトスペシフィック的視点による考察と調査研究」の北陸への研修旅行が、前期授業終了後の7月28日から8月1日まで行われました。
前期授業のなか、サイトスペシフィック性を様々な視点から考察、加えて絵画の典型的前提条件と考えられる対極のホワイトキューブについても改めて理解を深め、今回の訪問先、北陸、金沢21世紀美術館を中心に事前研究を進め旅行に臨んだ。

28日、9:30富山駅集合。各自 飛行機、青春18切符、夜行バスなど様々な手段で到着。
母袋と沖さんは前日夕方の富山入り。閉館直前の富山県立美術館で日本の現代美術、シュルレアリズムに多大な影響を与えた詩人であり美術評論家、瀧口修造にまつわるコレクションを観る。

教員2名、院生13名全員、貸切バスに乗車、まずは合掌造りで知られ現在は世界遺産にも指定される白川郷へ。あいにくの小雨まじり、なるほど大屋根は祈りに掌を合わせる形姿にも似て山間の風景の中なんともロマンティックではある。が、殊に”民家園”はまるでテーマパークのようにも感じられる。そこにあっただろう厳しくも生々しい民俗学的”生”の営みは削除整えられ、ゲストのためにのみ用意された絵空事のようにも見える。


実は、旅の直前、高校時代の担任で後に国学院大学で民俗学の教鞭をとった恩師から定年退職を期に出版した関連の著書が送られ、ざっと眼をとおしていた。恩師のテーマは団地などの都市生活の中での民俗学ということで、内向きで保守的なアカデミズムの世界においてはアクチュアルなその研究方法は自ずと周辺的にならざるを得なかったようでもある。民俗学が研究の対象として解析しようとする、既にないかもしれない対象、学究としてのソフトのアーカイブ化に対して、白川郷に見るツーリズム的外形すなわちハードのみの保存のあり方にはおおきな隔たりと戸惑いを感じてしまう。


再びバスに乗り能登に向かう。千里浜、砂浜の海岸線をバスはまるで船のように疾走する、すばらしい体験。

浜には防風林なのか防砂林なのか夥しい数の松が続く、当初、風を受け形姿を形成する松にセザンヌの描いた松を見ていたのだが、突如一群の松が 等伯の「松林図」に見えてくる。そういえば、能登七尾は等伯の出生の地であった。


低い水平線の上に拡がる空に、色彩を感受。「曇りを通して色彩が生成する」としたゲーテ色彩論を思い起こす。


能登ガラス美術館。90年代ポストモダンの建築。普遍性の欠落、それを導くあまりにも楽観的な前衛性に虚しさを設計者毛綱さんには悪いが感じてしまう。真正なモデルネの内に位置づけられるポストモダニティーではなく、あまりにもナイーブなアヴァンギャディズムか。バスは金沢到着。


30日、妹島和世+西沢立衛 SANNA設計の金沢21世紀美術館。建築が環境に対して連続性と断絶性の双方を持つこと、その関係が見事に体現されている。美術館建築にとって環境=外とは、すなわち社会。この館では円形の柱を持たないガラス面が外景とともに社会を内部に導きいれ、開いた美術館を実現している。そして断絶すなわち美術の特化は幾つかの内側の方形の展示スペースによって確保されている。ここで対極にある本学マンズー美術館の白井晟一の窓面を極力抑制し内部を外部から閉じ、内なる充実を外に向け威風を示す建築のあり方を思う。

ヤン・ファーブル×舟越桂展。テーマ:Alternative Humanities
舟越さんが前期、レクチャー(本アーカイブ「舟越桂 自作を語る」レポートhttp://painting.zokei.ac.jp/?cat=15)の際に様々なエピソードとともに触れられた多くの作品とともに「森に浮くスフィンクス」が 造形大裏山から切り出されトーネット方式で曲げられた自然木によって文字通り浮かされている。

美術館屋上にはファーブルの「雲を測る男」が空に向けて立つ。企画展で展示されている06年ベネツイア出品作「水に書く男」の黄金の作品とともに合わせ見るとバロック宮殿の屋根部に金の彫像が並ぶ光景を思い起させた。展示の都合か「水に書く男」の、肝心な金の指先が水面に接する様が見れないのが心残りであった。
両作品ともに、到底可能とは思われないことを試みる超越的行為。その中に潜む、愚かしさと崇高さを覚醒させられる。アート、芸術そのものに課せられた責務に勇気づけられる。

フランドルの古典絵画との対位法展示が試みられている。それぞれの作品の美術史的背景を含めた様々な意味を何重にも積み重ねられるシニフィエによって、ファーブル作品が様々な階層のシーニュを創出しようとする試み。
ヨーロッパの、そしてこのアーティストの知のスケールと厚みを、また欧州で芸術が果たそうとしてきたその役割の大きさを痛感する。
それを引き継ごうとするこのアーテイスト。
本展では国内にある周辺の作品で代行されているケースが多いため、単純なベルギー、フランドルのローカリテイー、アナザー・ストーリーの強調のように曲解される危険を内包している。
確かに幾重にも重ねられるシーニュではあるが、作品表面のキラキラする玉虫だけに反応する親子連れを見たとき、微笑ましさにも増して、落胆、絶望を見る・・・・これが開かれたアートのあり方、ポピュリズムというものなのか。
とはいえ、二人の作家の紹介であるなら、ボリュームにおいてもそれぞれに充実した内容であったといえよう。

21世紀美術館を後に円遊式庭園 兼六園を廻り正巽閣へ。上段の間に昨日の合掌造りを思い起こしつつ2階へ。群青壁の青にブルーノ・タウトが見出した還元的美的感覚の日本とは異なる美的感性を思うと同時に、モダニズムに対するバロックを思う。そしてイブ・クラインのIKBも。


お城をへて志摩へ。

31日、金沢市民芸術村にて「お土産とアート」をテーマにワークショップ。
個人あるいはグループで、7つのワークショップ制作が行われる。
途中、この4月金沢工芸美術大学彫刻専攻の教授に着任した、彫刻家中瀬康志氏の訪問を受ける。


制作終了後、発表,ディスカッション。
8月1日朝、解散。


スケジュール
7/28WED (取材)
7/29THU 富山駅集合 富山⇒白川郷⇒千里浜経由⇒能登島ガラス美術館《毛綱毅曠 設計》⇒金沢⇒ミーティング:意見交換会
7/30FRI 金沢21世紀美術館
「Alternative Humanities新たなる精神のかたち ヤンファーブル×舟越桂」
「高嶺格Good House, Nice Body ?いい家・よい体》
「八谷和彦《OpenSky》プロジェクト》+常設展示
⇒兼六園⇒成巽閣庭園⇒金沢城跡⇒志摩⇒(取材)⇒ミーティング:意見交換会、ワークショップ打ち合わせ
7/31SAT 金沢市民芸術村(ワークショップ、講評⇒ミーティング:反省会
8/ 1SUN 解散


学生コメント

江雅莉
研究対象:妹島和世の住宅
ワークショップ名:“日本風”とは
日本へ来てから、いくつの美術舘を見ました。金沢の美術舘が気になっています。なぜですか?台湾の美術舘に比べると、何故か距離感を感じないです。一般的な美術舘のイメージは厳しくて、近づきにくいです。金沢21世紀美術舘は一般の市民の生活と繋がっているように思えます。それは、例えば子供が休日家族と一緒にのんびりと過ごせるように、小さい頃から芸術との関係が身近なのです。これは人々にとっても芸術にとっても一番いいと思います。

周宛臻
研究対象:妹島和世の住宅
ワークショップ名:日本風とは
今回金沢に行き、色々な日本の伝統的な物や街を見る事ができました。さらに金沢21世紀美術館という世界的にも斬新な試みの美術館にも行くこともでき、金沢の伝統と現代のコンビネーションのうまさを体感することができ、感動しました。そして外国人の私にとって、初めて日本人との旅行をして、みんなと仲良くなることができ本当にうれしかったです。
ワークショップでは、お土産で柄・文様を中心に「日本風とは」というテーマを提起しました。金沢21世紀美術館で見たマイケル・リンの作品は日本人にとって日本の典型的な柄ではないとの指摘がありますが、リンと同国人である私から見ると、日本の柄に見えるということから始まりました。

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大城なつき
研究対象:ジェームズ・タレル
ワークショップ名:漆汁椀を置き換える
金沢は、伝統的な日本文化が主張し過ぎるでもなく、さりげなく、しかし色濃く残る場所だと思う。そんなところで、同世代と一緒に色々なものを見、感じることは東京にいてはできない、刺激的な体験だった。
現代美術館と歴史的文化遺産の対比、そしてワークショップで行った「アートとお土産」の対比。この2つが重なることで、日本文化の装飾性やお土産の表面性に対して、「アート/芸術」とはどうあるべきかを実体験として考える、良いきっかけになったと思う。

佐藤賢
研究対象:ヤン・ファーブル
ワークショップ名:金沢のお土産の包装紙で作った凧
今回、金沢への研修旅行に行くにあたり、事前に金沢21世紀美術館に恒久展示されている作家、及び企画展で取り扱われている作家達の活動、コンセプトなどを調べ、ある程度理解した上で作品を観賞し感じたのは作品その物からの読み取りがより容易になったり、逆に難解になったり、又作品の展示構成に疑問を深く抱いたりとおよそ何も調べてはない状態では得られないであろう見方が出来た事が良い経験になった。

高倉一樹
研究対象:ヤン・ファーブル
ワークショップ名:金沢のお土産の包装紙で作った凧
金沢の街と、金沢21世紀美術館を見て思ったのは、この美術館は、意図的に美術の敷居を下げる為に娯楽施設化した美術館として作られたのではなく、金沢という土地の考えに基づいて自然にできたものなのではないかということです。金沢は、様々な文化的建造物が保存、加工されて残され、それらは観光地の娯楽施設として、又、そこに住む人々の風景としてありました。この美術館もまた、それらと同じようなアトラクションの機能としてもあるように思います。この土地で私は、美術的価値を主張するハイカルチャーとしての美術以前の、美術的価値を拾い上げる、日本のプリミティブな美術(美術という名前すら与えられていなかったもの)の真のあり方を見ることができたと思いました。

佐藤慎吾
研究対象:マイケル・リン
ワークショップ名:金沢のお土産の包装紙で作った凧
金沢での3日間では、はじめに白川郷と能登半島にあるガラス美術館、2日目が21世紀美術館、金沢城、兼六園などの市内見学、3日目が金沢のおみやげをテーマにしたワークショップとその準備の為の自由時間という日程で進んだ。
この旅行は3日間という短期日程の関係上、金沢を掘り下げるというものではなく、金沢の表層を歩くというものになった。こうした旅の進行は最終日のワークショップのおみやげというテーマに合致したものだったように思う。旅行とお土産はその土地の地域性を伝えているようで実はそうでは無く、ある限定された地域の特化したイメージのみを伝えているのだと思う。つまり、金沢では私達が行かなかった場所が実際はほとんどだし、金沢の人は私達の行った所には普段行かないだろうし、そもそも金沢は石川県の1都市にすぎない。私達は特定のルートを辿って金沢/石川県の知識を得たのだが、それを表現する媒体としての表層的である“お土産”を選んだという事は面白く思いました。
一方でお土産や旅行はやはり何かを伝えるものであることも忘れてはいけません。旅行には土地や人を結びつける様々な効果がありますし、その為に私達は旅行やお土産を買うのが普通だと思います。私が事前調査したマイケル?リンの作品はそのようなものなのでしょう。3ヶ月の調査で制作されたマイケル?リンの壁画には加賀友禅のイメージが描かれています。それはポジティブな表層なのだと思います。それによって私達は金沢の特定のイメージと等価値の空間を共有することができます。
今回のワークショップではこうしたことからお土産の包み紙など実体そのものではないがあるイメージを極端に伝えるものに興味がありました。凧のアイディアは偶然でしたがそれが凧となって空間を浮遊するさまは面白かったです。




滝川おりえ
研究対象:アニッシュ・カプーア
ワークショップ名:温度を測るクマ
金沢という古(いにしえ)の復興は可能か?観光地化されたローカルな街の印象をも持つ金沢、城下町や茶屋町など古都の風情を感じる。そんな中、際立つ美術発信が行われている金沢21世紀美術館。20世紀的典型な中央集権的美術発展が見落としていたローカルの再考をコンテンポラリーアートで可能にさせるかのような試み。場を持たない情報の多さが、そこかしこの現場を身近にした。古(いにしえ)の復興は同時多発的なグローバリゼーションを予兆させる。

藤原佳恵
研究対象:ピピロッティ・リスト
ワークショップ名:おみやげを一口食べてから相手に贈る実験
資料で《雲を測る男》を目にした時、何がどう素晴しいのか理解できませんでした。しかし、実際に作品の前に立つと、何とも言えない感動と納得で胸が一杯になりました。現場に行かずして判断など、やはり有り得ないのですね。作品の一部がメディア(写真・動画・言葉)により切り取られ、作品の全てかの如く配信される残酷さと、その情報を鵜呑みにしがちな自分の愚かさを痛感しました。
また《雲を測る男》に会いに行こうと思います。今度はメジャーではなく、大きなものさしを持って行きたいです。

磯邉寛子
研究対象:パトリック・ブラン
ワークショップ名:たまひめ様
今回の研修旅行は想像以上に楽しかったです。ワークショップについて、当日までかなり不安もありましたが、普段やらないようなことをみんなで出来て、たま姫様となった白川郷の饅頭の大名行列よろしく頭を伏せたり、上段の畳を作るべくあそこまで真剣にとろろ昆布と向き合う事はもうないのではないかと思います。金沢ありがとう。

佐藤理恵
研究対象:パトリック・ブラン
ワークショップ名:たまひめ様
今回の金沢研修旅行はとても充実した時間を過ごせた。
昔の文化に触れられた建築巡りもとても楽しく、良い経験ができたが、やはり、金沢21世紀美術館に行けたことは良かった。事前に調べて行っただけに俄然楽しめた。事前研究対象のパトリック・ブランの「緑の橋」は、人一倍愛着があるはずなのに、作品を前にしても他の人に言われるまで気づかなかった。予想外に地味だった。でも企画展も常設展もとても見ごたえがあって楽しめた。
ワークショップは最初、何もアイディアが無かったが、4人で話していくうちにどんどんアイディアが出てきて話が膨らんでいって、みんなで1つのものを作っていくのがとても楽しかった。
今回の研修旅行はまるで修学旅行のようで、大学院2年生という学生でいられる最後の年に、再びそのような体験ができたことは本当に良かったと思う。

野坂紗智
研究対象:パトリック・ブラン
ワークショップ: たまひめ様
金沢市内の中心地は、かつては城、掘があり石垣が高く積まれ、外敵を拒んでいましたが、今は金沢21世紀美術館は色々な人を沢山受け入れようとしている場所であり、その2つが今日隣接している場所でした。
それは、皇居とその周囲を環状に囲むガラス張りのビルとの関係性とは違って見えました。
ある時代から機能が終わり、過去を示すものとして存在している金沢の城と、現在もなお、国の象徴としてあり続ける場所とではその周囲のありかたがこんなにも違うものかと改めて感じることができました。

榊貴美
研究対象:ピピロッティ・リスト
ワークショップ名:たまひめ様
金沢の歴史や習慣に触れ、事前研究で調べた作家達の作品を実際に鑑賞し新たな視点を獲得することが出来ました。ワークショップでは4人でグループを組んでみたり、夜のミーティング+飲み会では白熱した場面もあり、色々と楽しかったです。充実したプロジェクト旅行となりました。



渋谷友香理
研究対象:レアンドロ・エルリッヒ
ワークショップ名:東京人
今回の旅行を通して、わたしが疑問に思ったことは、金沢の人々が、土地の伝統と金沢21世紀美術館のような新しい外来の文化に対して、どのような意識を持っているのか、ということでした.それを考える方法として、古都であり、かつ一地方都市である金沢と、明治以降の首都である東京とを対比する方法があると思います。
東京の人々と無数の文化は、どのような関係を持っているのでしょうか。また、何を基準として、その二つが適切な関係を結んでいる、といえるのでしょうか。
こうした問いを意識し続けることで、地方における場の固有性を理解したいと思いました。





(文責:母袋俊也)

(助手:真之介)


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